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矢原の庚申さま~穂高・矢原

穂高の矢原公民館の敷地の横の立派なお堂のなかに、ひっそりと西を向いて立っている庚申(こうしん)さまがあります。庚申さまの台には「元文三年」と記されています。この庚申さまにまつわる昔話です。

むかし、矢原にじさまとばさまが一人息子の鉄太郎と暮らしていました。鉄太郎は、生まれつき耳が聞こえず口もきけない若者でしたが、村一番の力持ちでした。

ある時、三人で野良仕事に出かけることになり、じさまが先に家を出ました。いつも通る権現池のそばまで来た時、「ひゃあーっ」と悲鳴をあげてしまいました。
権現池の中から、真っ赤な火が噴き出しているではありませんか。じさまは、ぶるぶるふるえながら、その火を見つめていました。

           006                        ( 庚申さまは、はじめ矢原神社の境内に祀られていました )

すると、その火の中から、髪の毛が炎のように逆立った青色の身体の仏さまが現れました。その仏さまが、かすれた声で「世に出てえ、世に出てえ」といいました。

じさまは恐ろしさのあまり、立ったまま動けなくなってしまいました。そのとたん、火も仏さまも跡形もなく消えてしまい、いつもと変わりのない権現池の風景となりました。
まもなく、ばさまと鉄太郎が来ましたので、じさまは今見たことを話しました。

その夜、じさまは、村一番の物知りの助じいを訪ね池で見たことを話しました。助じいは、「ほう、そりゃあ、むかし矢原神社の側に祀ってあった庚申さまかもしれねえぞ」といいました。

助じいの話では、秋祭りの夜に酒に酔った村の若い衆が、「ご利益のない庚申さまなんぞ池へ捨てちまえ」とみんなでかついで権現池に放り込んだことを年寄りから聞いた覚えがあるというのです。

             017            ( 鉄太郎が担いだ庚申さまは身の丈1㍍余りの大きく重いものでした )

そして次の日、村の衆が集まり、池の水や泥を汲みだして庚申さまを探すことになりました。しかし、庚申さまはなかなか見つかりませんでした。とうとう日が西の山に入りかけて、今日の作業は打ち切ろうと話していたとき、「あったぞう」の声が上がりました。

荒縄で結わえ、「せえの、せえの」とみんなでその石を掘り上げてみると身の丈1㍍くらいもある泥まみれになった庚申さまでした。「もったいねえことだ」と口々にいいながら庚申さまをきれいに洗いました。

     012                         ( 矢原の庚申さまは今、立派なお堂の中に祀られています )

すると、ばさまが「鉄、この庚申さまをおぶって郷倉(ごうぐら=飢饉などに備えた食糧倉庫)まで運んでくりょ」と手まねで鉄太郎にいいました。鉄太郎はにっこりしてうなづきました。
鉄太郎は、縄が肩に食い込むほどに重い石の庚申さまを背負って、ひと足ひと足踏みしめながら郷倉まで運んでいきました。

郷倉まで運んで鉄太郎は庚申さまを下ろしました。「あぁあ、重かったぞよ」 鉄太郎が大きな声でいいました。 

「あっ、鉄がしゃべった」と、その声を聞いた村の人たちは、顔を見合わせ鉄太郎を囲みました。「鉄、ほんとにおめえがしゃべっただなあ」「ああ、重かったよう」-この声を聞いてじさまとばさまはうれし泣きに泣きました。村の衆も、もらい泣きしました。「ありがたや、ありがたや。庚申さまのご利益だ」とみんなは口々にいいながら手を合せました。

           132            (鉄太郎が庚申さまを運んだ郷倉の跡に、現在は矢原公民館が建っています)

今でも年に一度の初庚申の日には、矢原のお宮の氏子たちが、七色の吹き流しや旗を立ててお祭りしているということです。

 

       * 『 あづみ野 穂高の民話 』(安曇野児童文学会編)を参考にしました。

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