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あばれ薬師さま~堀金・中堀

中堀の薬師堂は、常念岳を背に、広々とした田んぼの中にあります。お堂の中には、薬師如来が祀られ、村人たちは「お薬師さま」と呼び、大切にお守りしています。

このお薬師さまは、もともとは筑北村別所の岩殿寺(がんでんじ)に祀られていました。このころのお話です。

          052                          (現在の岩殿寺)

岩殿寺は、北国西街道に面していましたので、お薬師さまの前を大勢の旅人が行き来しました。旅人の中には、旅の無事を祈ってお薬師さまにお参りしていく人もいましたが、素通りしていく人もいました。

このお薬師さま、もともとが短気な性格の神さまでした。お参りしない旅人を見ると、「わたしがこうして祀られていというのに、なぜ、お参りもせずに通り過ぎていくのだ」と、癇癪(かんしゃく)を起こしていました。「ようし、それなら思い知らせてやろう」と、お薬師さまは決心しました。

          047_2 (岩殿寺本堂の前に、馬の全身像を刻んだ珍しい馬頭観音の大きな石像が祀られています)

ちょうどその時、目の前をさっさと通り過ぎていく旅人がいました。お薬師さまは、鋭い形相でその旅人をにらみつけました。すると、旅人は足がもつれてずでーんと転んでしまいました。

しばらくすると、別の旅人も素知らぬ顔で薬師さまの前を通り過ぎました。この旅人は、足をねじってしまい旅を続けられなくなりました。

           057

     161(近年まで寺社に馬を入れることは禁じられていました=上は長野市戸隠の戸隠神社奥社前の石標、下は三郷・及木の伍社の鳥居前に残る明治期の高札)

次の日は、馬に乗ったまま通り過ぎようとした人がいたので、お薬師さまは「馬に乗ったまま通り過ぎるとは、この礼儀知らずめが」と、いよいよ腹を立て、にらみつけました。

すると、馬は急に前足を高く上げて立ち上がったり、後ろ足を跳ね上げて駆け出したりの大暴れとなりました。その旅人は馬から落ち、手と足を折ってしまいました。

           049                            (岩殿寺の本堂の両脇に二頭の馬が祀られています)

そんなことが、お薬師さまの前であまりにも多く起こるので、村人たちは「岩殿寺のお薬師さまは、あばれ薬師だ」と噂するようになりました。この話を聞いた岩殿寺の和尚さんも困ってしまい、村の役人に相談に行きました。

「かと申して、お薬師さまを罰するわけにもいかぬでなあ」と役人も頭をかかえてしまいました。はてさて、どうしたものかと思案していたところに、中堀の庄屋から「ここのところ、村のあちこちでよくない病が流行って困っています。村を守ってくださるお薬師さまを探しております」と、和尚のところに手紙が来ました。和尚さんは飛び上がって喜び、さっそくお薬師さまを中堀へ移すことにしました。

          031(かっての「あばれ薬師さま」も、中堀に来てからは、穏やかにこの薬師堂で過ごすようになったということです)

お薬師さまをを迎えた中堀の人たちは、大事に祀り、新しいお堂の広場では子どもたちが毎日やって来ては遊びにきました。いっぱい遊んで、夕暮れになると「お薬師さま、今日も一日ありがとね」「お薬師さま、また明日ね」と、お礼をいって帰っていきます。

こうしてお薬師さまは、中堀へ来るようになってから、ただの一度も癇癪を起こすこともなく穏やかに過ごされるようになり、「あばれ薬師」と呼ばれることもなくなりました。

 

               * 『あづみ野 堀金の民話』(あづみ野児童文学会編)を参照しました。

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