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天の鈴石~明科・小泉

小泉の東に犀川という大きな川が流れています。豊な川の水は、日本海へ向かって流れ、 幾筋もの川が流れ込み、やがて千曲川と名前を変え、新潟県に入ってから信濃川と呼ばれ  日本海に注ぎます。   

おせきの家は、この犀川のそばで、おとっさまとおっかあさまと二つ違いの妹のおよしと暮らし ていました。おせきが十歳になったときのことです。田植えが済んでホッとしたのも束の間、そ の後、一滴の雨も降りません。

梅雨の時期の六月だというのに、むんむんとした暑さだけが続き、やがて田んぼに引く小川の水も、沢の水も枯れ、豊かに水をたたえていた犀川までも水かさが減ってしまいました。川原がむきだしになり、わずかに川底に一筋の水が流れているといったありさまになってしまったのです。

     018 (今はこの南陸郷・小泉地域も灌漑用水が流れ、水に困ることはなくなりました) 

田んぼはカラカラに渇き、大きく深くひび割れ、やっと少し伸びた稲の葉も茶色に変わってきました。畑の大根や豆の葉もげんなりしおれてきました。「おらの子どものころのこんだが、日照りになって、子どもや年寄りが何人も飢え死にしたってが、あんなことにならねばいいが…」と、おとっさまが声を落として、おっかさまに話しているのをこっそり聞いてから、おせきは気が気ではなくなりました。   

おせきは、おとっさまも村の人たちと一緒に八幡さまに毎朝毎晩、「雨が降りますように。雨が が降りますように。おたの申します。おたの申します。……」と、お祈りする姿も見ていました。天の神さまも地の神さまも、みんなの願いを聞き届けてくれそうにありませんでしたが、みんな一心に祈り続けていました。

           017(雨乞いは、明和、寛政、文化、文政、天保、年間(1700~1800年代)に盛んに行われていたことが、穂高神社に残されている史料からうかがえます)

田んぼからカエルの鳴き声が聞こえなくなり、家々からも笑い声が消えました。遊びまわる子  どもたちの姿も見えません。大人も子どももうらめしそうに、雲ひとつない真っ青な空を眺めては、ため息ばかりついていました。   

それから数日した朝、おせきは村の人たちと一緒に「雨を降らせてください。どうか飢饉になり ませんように…」とお祈りしていました。すると何の前触れもなく、「ゴロゴロゴロン、ゴロン、ゴゴロン」と大きな音とともに山の上からたくさんの石が、みんなの前に転がり落ちてきました。「うわあーっ!」と、みんな一斉に飛びのきました。   

転げ落ちてきた大きな石の一つが、おせきの前で止まりました。およしが「ねえちゃん、見て  て見て、この石、鈴のかっこしてる」といいました。「ほんとだ。石の鈴だ」とおせきは、つるつるした石をなでました。その時です。ピカーッ!と稲妻が光ったかと思うと「コ゜ロゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロビシャン!」と、村中を揺さぶるような雷鳴がとどろきました。おせきもおよしも、とっさに頭をかかえて地面にうずくまりました。

          Photo(おせき姉妹の前に転げ落ちて来た鈴石。いま、和泉神社の片隅に安置され、年月とともに苔むしています)

雲と雲の間から雷が鳴り響き、やがて雨が滝のように落ちてきました。「雨だ、雨が降ってき  た」「ありがてえ、ありがてえ」と村人たちはびっしょり濡れながら空を見上げていました。

突然 おせきが、およしの手を引いて駆け出しました。「ねえちゃん、どこへ行くだ?」。およしが聞いても返事がありません。走って行った先は、家の田んぼでした。雨は激しく降り続き、おっかさまの手のように痛々しくひび割れていた田んぼが、雨水をどくどく吸い込んでいました。   

田んぼの水を見届けたおせきは、およしの手をつかんで家へと走り、「田んぼが、がっぽがっぽ水飲んでいる」と、病気で寝ているおっかさまに話しました。「よかった、よかったなあ。助かったな」と、おっかさまは二人を抱きしめました。「うん。天からまあるい石が落ちてきただよ。こんねに大きな鈴のかっこした石だったよ。そしたら雷さまが鳴って、雨がたくさん降り出しただ……。あの石のおかげだよ。あれは神さまの石だ」

           015                (村の氏神さまを祀っている和泉神社。ここに鈴石が保存されています)

それから何日も、雨は静かに降り続きました。田んぼの稲も畑の作物も、馬も牛も生き返りま ました。「あの石のおかげだぞ。あの石を大事にせにゃあ、罰があたる」と村の人たちの中に、そんな声が強まり、鈴に似た丸い石は八幡さまの社に大切に祀ることになりました。

その後も日照りになると、藤で編んだもっこに入れて村中を転がしてまわりました。すると、必ず雨が降ったということです。その上、火事も起こらなくなったので、この不思議な石を「天の鈴石」として雨乞いや火除けの神としてあがめました。八幡さまは、明治になってから小泉の和泉神社に移され、鈴石は今、ここの境内に残っています。   

 
 

          * 『 あづみ野 明科の民話 』(あづみ野児童文学会編)を参考にしました。   

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