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神翁さま~穂高・嵩下

むかし、嵩下(たけのす)に一人のじいさまが住んでいました。じいさんは、たいそうな働きもので、朝早く起きて山に柴刈りに行き、たくさんの柴を背負って下りてきます。

それを村の人たちに売って暮らしていました。じいさまの作った柴は、太い枝がたくさん入ったとてもよい柴で、ふつうの人よりは高い値で売れました。

          004         (神翁さまはいま、嵩下住民の氏神・館宮神社の一角に祀られています)      

ある時、山へ出かけたじいさまに村の若ものたちが「やあ、じっさま。どうだい、おらたちとちょっくら柴のしょい比べするじゃねえかい」と誘いました。「それじゃ、やってみるとするか」と承知してしょい比べをすることになりました。                                    

そこで、みんなは柴の束を作り始めましたが、じいさまは他の誰よりも早くたくさん作り、しかも作った柴の束の大きさは、全部同じなのでみんなは感心しました。若ものたちは、今度はじいさまより一束でも多くしょってやろうと思いました。

ところが、若ものたちが四、五束の柴しかしょってないのに、じいさまは十束もの柴をしょって「できたかね」と声をかけ、さっさと歩き始めました。若ものたちは、じいさまの仕事の速いのにすっかり驚いてしまいました。

                  145            (柴を背負う時に使用した背負いこ=穂高郷土博物館蔵)

ある日、じいさまが柴を売りに歩いていると、前からしょんぼり歩いてくる人に出会いました。「どうかしたかね?」とたずねると「おらの親類が、流行り病にかかり面倒見ていたおっかさまにも、うつって寝込んじまってせ。それで、おらが行ってやろうと思うだが、おらもうつりゃおっかねえで弱っているだ」と話しました。

そこで「わしが変わりにいってやるだ」と言って、病人の家に行き、体をきれいに拭いてやり、一心に祈り、おかゆを食べさせてはまた祈り、夜も寝ないで看病してやりました。

まもなく病人は起きられるようになりました。「おかげさまで助かりました」と、じいさまに手を合わせお礼をいいました。                                    

またある時は、隣どおしで土地の境をめぐって大争いをしている人たちがいて、仲介を頼まれてじいさまは、両方の土地の真ん中を仕切って境を作り、二度と土地争いが起こらないようにしてやりました。

また別のところでは、他人の鐘をだまし取ったり、他人の家に入りこんで金や物を盗んできてしまう人がいました。じいさまは、その人のところへ行き話しをして、お金を与えて償いをするようにさせました。                                    

そればかりでなく、幼い子をかかえて働きにもいけずに困っている人や、病気で長く寝ていて生活に困っている人には、一生懸命、柴を売って貯めたお金をくれてやりました。

     3_2                       (館神社の本殿)         

じいさまが働き者で、信心深く、わけへだてなく他人の面倒をみることから、村人たちは神さまのような人に思えて、誰いうともなく「神翁(しんのう)さま」と呼ぶようになりました。                                    

ある年の、とても寒い日のことでした。じいさまは朝早く、いつものように柴を刈りに山へ出かけていきましたが、どうしたことか、そのまま帰ってきませんでした。

それから少したったころ、村の人たちは神翁さまの姿が見えないのに気づきました。「どこへ行ったずらいね」。村の人たちは、総出で手分けして山の中をあちこち見て周り、「し・ん・の・お・さ・まぁー」と口々に叫びながら必死に探しました。                                    

その結果、天満沢(てんまざわ)の「蛇の窪」という大きな石の上に、神翁さまが使っていた鎌と草履(ぞうり)がきちんと並べてあるのを見つけました。しかし、ついに神翁さまの姿を見つけ出すことはできませんでした。                                    

村の人たちは山を下り、神翁さまの家へ行きました。神棚に神さまが祀ってあり、その前にお神酒(みき)が供えられてあって、小机の上にある小さな箱にはたくさんのお金が入っていました。

「このお金で神翁さまのおとむらいをするじゃねかい」と言うと、別の人が「あの人のこんだで、ひょっこり帰ってくるかも知れねえじ」といい、結局、村の人たちは交代で神翁さまの家に泊まることにしました。

           Photo_4                    (境内に祀られている神翁さま)

ある夜のこと、泊まっていた平八さんの夢の中に神翁さまが出てきました。「みなさんが、わしのことをいつまでも思ってくれるのは大変ありがたいが、もう待たないで下さい。この村のことはこれからも、わしが守りますから」といったのです。

平八さんはみんなにこのことを話すと「神翁さまはやっぱり、神さまだっただね」「これからも神翁さまのこと、忘れちゃならねえ」と口々に神翁さまのことをしのびました。

  

       * 『 あづみ野 穂高の民話 』(安曇野児童文学会編)を参考にしました。

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