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池ノ戸池~明科・荻原

むかし、荻原の西に池ノ戸というところがあって、そこにはどんなに日照りが続いても、決して枯れない池がありました。いつも満々と水をたたえて、底はとても深くて見えないほどです。

その池に、いつのころからか大蛇が棲みつくようになり、村の人たちは「大蛇が池」と呼んで、だれも近寄りませんでした。     

     118_2                         (荻原はいま、池の面影も残さず、田畑が広がっています)

ある日のこと、金蔵は子馬を連れて池の近くまで、草刈りにやって来ました。「みんな、おっかながって近づかねえが、それほどのこたあるめえ。池のそばだで、いい草がたあんとあるでな」と、馬を池の近くの木につなぎ、草刈りを始めました。

ザクザクザクと、いい具合に草を刈っていると、「ヒヒーン ヒヒーン」と馬がけたたましく鳴きました。驚いて馬のいる方へ走って行きました。

すると、今まで見たこともないような大蛇が、馬の尻尾をくわえて池の中に引きずり込もうとしているではありませんか。「アオ、走れ。早く!早く!」と金蔵は大声を上げました。

子馬のアオは、尻尾を引きちぎられながらも、あわやのところで逃げ出すことができました。後にはザブーンという大きな音がして、池の水は激しく波立っていました。

刈った草もそのままに、金蔵はアオを連れて逃げ帰りました。その話を聞いた村人たちは、なんとかして池から大蛇を追いだす方法はないものかと話し合いましたが、これといったいい案も浮かんできません。この噂が泉福寺の和尚さんの耳に入りました。

     116                           (泉福寺は、荻原の山深くにひっそりとあります) 

「どれ、ものは試しだ。一つやってみるか」と、和尚は池の方へ向かいました。やがて池の端まで来ると、この当たりでは見かけない美しい娘が、洗濯しているところに出会いました。

「あら、和尚さま。どちらへお出かけですか?」と、きれいな声で話しかけてきました。「わしか、わしはお前に用があってきたのじゃ。お前は村の衆を怖がらせたり、悪さばかりしておる。この池から出ていってもらおうと思ってやって来たのじゃ」。

そう言ったときです。娘の顔が黒くゆがんだと思ったとたん、たちまち口の裂けた恐ろしい大蛇に変身しました。「正体、現したな」と、和尚はお経を唱え始め、その声は辺りに響き渡りました。

すると、大蛇は苦しそうにのたうちまわって池の中に沈んでいきました。和尚は村の人たちを呼んできていいました。「さあ、みんなで池を切り崩すのじゃ。そして、水を払えばあの化け物を追いだすことができる」

     043                          (大町山岳博物館に展示されているヤマカガシの剥製)

村の人たちは総出で、池の土手を掘って水を流しました。しかし、あと少しのところで、なかなか水がはけません。辺りは、すでに暗くなっていました。「後は、わしに任せなさい。明朝、また来てください」と和尚はいいます。

みんなを家に戻すと、和尚は寺に戻って「南無阿弥陀仏」と書かれた札を持って、再び池に来ました。そして、その札を、お経を唱えながら池の水の溜まったところへ投げ入れました。

     109                  (村人たちが恐れていた大蛇を鎮めた和尚さんが住んでいた泉福寺の本堂)

その夜、ズルズルという地面をこするような不気味な音が村中に響き、地震のように大地がグラングランと揺れ、だれもが怖さのため、一晩中震えていました。翌朝、静かになったので、村の人たちは池の周りに集まりだしました。すると、どうしてもはけなかった水がすっかりなくなっていました。

「ああ、よかった。昨夜の騒ぎは、あの大蛇が出ていっただね。おら、生きた心地がしなかっただ」。そして、みんなで池を元どおりにして村へ水を引くことにして溝を掘りました。

ところが溜まった水がなかなか流れません。掘った溝がいつの間にか、埋まってしまうのです。じゃあというわけで、溜まった水でレンコンを作ってみましたが、泥臭くてとても食べられません。

「こりゃあせえ、どう考えてもあの大蛇を追いだした祟りじゃねえかい。どうずら、ひとつ祠でも建てて供養してみちゃ」と、村の人たちは池のそばに祠を建てました。今では雑草が生い茂り、池の面影も分からなくなり、すっかり荒れ果てていますが、どこからか水が湧き出て一面、湿地帯になっているそうです。

 

           * 『あづみ野 明科の民話』(あづみ野児童文学会編)を参考にしました。   

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