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塔ノ原のタヌキ~明科・塔ノ原

ある年の秋の夕暮れ、塔ノ原の庄屋の戸口をたたく人がいました。庄屋の主人は病で伏せていましたので、かみさんが戸を開けると、紫の衣を着て白いひげをはやした坊さんが立っていました。

「わたしは、鎌倉の建長寺の和尚です。善光寺へ行くのですが、暗くなってしまいましたので、一夜をお借りしたいのですが」と、深々と礼をしました。落ち着いた口調、品のある物腰から、かみさんは位の高い坊さまだと思い、一番いい部屋に通しました。

             071(高僧の身なりをした旅の僧は、善光寺へ行くのだといったそうです。……国宝・善光寺は、連日、善男善女の参詣が後を絶ちません)

そして、一番いい酒を買いに使用人を走らせ、近所の人たちの手を借りて夕飯の支度に取りかかりました。やがて、たくさんのご馳走が運ばれてきました。生の鮭、山鳥の肉、マツタケなどお膳いっぱいに出てきました。それに旅の疲れが取れるように、お酒までついてきました。

      084_2(旅の疲れを取るために、おかみさんが用意した一番いい酒を、“建長寺の和尚”は盃でいただいたのでしょうか=明科歴史民俗資料館蔵)

「たいへんお待たせしました。山の中なので、何のもてなしもできませんが、お召し上がりください」と、かみさんが言うと「食事は仏とともにいただきますので、すまないが皆さんはお引き取りを」と、澄んだ声で坊さんは言いました。       

しばらくして、使用人が「おかみさん、たいへんです。お坊さんの姿が見えません」と、駆けこんできました。かみさんは驚いて、坊さんのいた部屋へ走りました。そして、またびっくりしました。あれだけのご馳走を、一つ残らず、たいらげてありました。家中、坊さんを探して大騒ぎになりました。       

「おりました。池のそばで、お休みになっておられました」と、やっと見つけた使用人が、かみさんに知らせにきました。使用人に起こされ、部屋に戻った坊さんは「若い修業のころ、よく野宿しましたので、ついそんなクセがでてしまいまして…」と、気恥かしそうな面持ちでいいました。

     085(姿が見えなくなったお坊さんを探すために、こうした弓張提灯なども使われたことでしょう=明科歴史民俗資料館蔵)

かみさんが「お疲れのところ、おそれいりますが、家宝にしたいので何か書を残していただけませんでしょうか」と筆と硯(すずり)を持ってきました。「わかりました。仏と一緒に書きたいので、部屋をでていてくだされ。できましたらお呼びします」というので、かみさんは自分の部屋に引き返しました。       

やがて、坊さんの「できましたぞ」という声がしましたので、坊さんの部屋へ行くと「これは、わたしがこの家を後にしてから三日目に開けなさい」と、坊さんは言って書をかみさんに渡しました。

           154(坊さんに書を書いてもらうために、かみさんが用意した硯箱はこんなものだったでしょうか)

翌日、朝食を終えて旅支度を整えた坊さんは、「この薬は万薬です。病のご主人に飲ませて下さい。じき治ります」といって、大勢の人に見送られ、北へ向かって旅立って行きました。       

坊さんが発ってから、三日目のことです。かみさんの耳に、遠く離れた峠の手前の一軒家の近くで、紫の衣を着た大きなタヌキが死んでいたという話が聞こえてきました。

かみさんは、そのタヌキが身にまとっていた衣や持ち物が、あの坊さんとそっくりだったので驚き、すぐに使用人を一軒家へ行かせ、話を聞いてくるようにいいました。

     109              (剥製保存されているタヌキの標本=大町山岳博物館蔵)  

遅くなって戻った使用人の話はこうでした。夜になって飼っている犬があまりに吠えるので、外に出てみると、犬が柿の木の上の方を見て、盛んに吠えていました。月明かりの中で見えたのは、柿の木にしがみついている坊さんの姿でした。

犬を叱りつけて吠えるのを止めようとしましたが、まもなくドサッという大きな音とともに坊さんが木から落ちてきました。びっくりして坊さんのもとに駆けつけると、紫の衣をまとった大きなタヌキが死んでいました。

大タヌキは、旅の途中の坊さんをだまして衣を奪い、自ら坊さんになりすまし多くの人たちをあざむいたということでした。

話を聞いた主人とかみさんは、坊さんに化けたタヌキが残していった書を見ることにしました。封を開けると、へたくそな字が書いてありました。「こりゃあ、なんだ。タヌキは自分の尻尾で書いたな。字になってないな。ただの線だわい」。そして、万薬だといって渡された薬の残りをよく見てみると、ただの小麦の粉でした。   

 

         * 『 明科の伝説 岩穴をほった竜 』(降幡徳雄著)を参考にしました。      

 

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