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御殿林のキツネ~豊科・新田

新田の氏神さまの周りは、むかしは大きな林でした。北側は、与平衛が藩からいただいた林だというので、御殿林、その南側は徳蔵という人の持ち物だったので徳蔵林が広がっていて、子どもたちがよく遊んでいました。

           097          (今は開発も進み、新田社北側の御殿林も、すでにその面影すらありません)

ところが、いつのころからか、林で青白い火の玉が、ポワンポワンと浮いていたとか、大小の火が列をなして行くのを見たという話がささやかれるようになりました。それも、いつも、雨降りの暗い晩や雨上がりの蒸し暑い夜に現れるというのです。

「もしかして、ありゃあ、キツネ火じゃねえかや。キツネ火ってもんは、決って雨降りに出るって年寄りに聞いたことあるがせ」。「そうせ、キツネが雨降りに生骨や尻尾を振り回して、火の玉見せるってことも言うじ」。「そうすりゃ、ありゃ御殿林のキツネのしわざに違えねえ」ということになりました。

この話は、林で遊ぶ子どもたちにも広がりました。「うちのおじじは、ありゃキツネの嫁入だって言ってたぞ。おらの姉ちゃんも嫁入りのとき、行列連ねて行ったでな」と、正吉が言いました。

「そんじゃ、キツネも、正吉の姉ちゃんみてえな嫁入り行列して、この林を通って行くことかやあ」。そして、「こんだ雨降った夕方にゃ、ここへ集まるだぞ、いいか」と、こわいもの見たさも手伝って、子どもたちは約束しました。

     066_2(嫁入り行列のときは、紋付、袴(はかま)姿で、列をなして嫁ぎ先へ向かいました=明科歴史資料館蔵))

それからしばらくした雨上がりの夕方、約束の場所に来たのは、正吉ひとりだけでした。「なんだ、ほかのもんは、おっかねくなって来ねえだな。いくじねえもんだ」と、言ってはみたものの、やっぱり心細くなって正吉が家に帰ろうとした時でした。

御殿林の奥の方に、ポワンと火の玉が浮かび上がりました。「アーッ!」。息を飲んだ正吉は、棒のように突っ立ったまま動けなくなりました。

           085(嫁入り儀式は夕暮れに多く、行列は提灯で足元を照らしながら進みました=明科歴史資料館蔵)

二つ、三つ、六つ、七つ……火の玉は、点いたり消えたりしながら長い列になると、チラチラ揺れながら進んできました。それは、まるで大勢の人が手に手に提灯を持って歩いてくる行列のように見えました。ガヤガヤと祝い酒を飲んだ行列の人たちの、にぎやかな話し声までが聞こえてきました。

そして、紋付羽織に白足袋(たび)の人たちが、次々と目の前を通り過ぎて行きました。長持ちやら箪笥(たんす)やらが、ずらっと並んで続く、長い行列の真ん中あたりに、お籠に乗った嫁さまの姿がちらりと見えました。色の白い、それはそれはきれいな嫁さまでした。

去年、嫁にいった姉ちゃんの顔が浮かんだとき、パラパラと雨が降りだしました。ぶるっと身震いした正吉が、辺りを見回したときには、行列も嫁さまも消えて、林の中はシーンとして真っ暗やみでした。

     030(穂高・有明山神社の裕明門の天井に描かれている極彩色のキツネ。金網ネットで保護されているため、檻に入っているようです。正吉が見た色の白いお嫁さんは、白キツネだったのでしょうか)

正吉の話しを聞いて、源兵衛が御殿林のキツネをつかまえてやろうと考えました。「キツネにゃ通り道があるに違えねえ。そいつをめっけりゃ、とっつかまえら れるぞ」と、キツネ火が現れるのを待ちかまえました。しばらくした雨の夜、源兵衛は、徳蔵林から赤い提灯が並んで来るのを見つけました。

「出たぞ。あの辺りだな」。木の陰から源兵衛が、その場所を確かめると、行列はパッと消えました。「まだ、まだだぞ。次はどこに出る気だ」。源兵衛が目玉だけ動かして探っていると、なんと、行列は反対側の御殿林に現れました。「ようし、これで分かったぞ」。

次の日、源兵衛はキツネの好きな油を持って林に行きました。そして、見当つけた場所立って、御殿林から徳蔵林まで歩きながら、タラリ、タラリと油をたらしていきました。徳蔵林にある茂みにつくと、そこに穴を掘って上に草をかけ「これでよし。仕掛けは上々じゃ、仕上げは明日の朝というもんせ」と、にんまり笑って帰っていきました。夜明けを待って行って見ると、案の定、キツネが一匹、穴の中に落ちていました。

それからは御殿林で、怪しい火の玉を見たという話は聞かれなくなったということです。

 

                * 『 あづみ野 豊科の民話  』(あづみ野児童文学会編)を参考にしました。

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