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お小僧火~穂高・牧

穂高・牧に栗尾山満願寺(くりおざん まんがんじ)という古刹(こさつ)があります。

今はどうかわかりませんが、少し前まで風の吹く夜など夜の暗闇のなかで、寺の千年杉のあたりが明るくなり、ゆらゆらと大きくなったり小さくなったりする青白い火が見られたということです。村人たちはこの怪しい火を「お小僧火」と呼んでいたそうです。

               3                              (満願寺の境内にそびえ立つ千年杉)

満願寺の近くに住む夫婦に、一人の男の子がいました。子どもは外ではあまり遊ばず、家の中で本を読んだり字を書いたりするのが好きでした。そんな子どもを心配した親は「なんとか立派に育てたい。そのためにもお寺においてもらおう」と満願寺の和尚を訪ねました。

すると和尚は「あの子は、ほかの子とは違うと思っていた。ものになりそうだと思う。寺の修業は厳しいがついて来てみなされ」と引き受けてくれました。そして、あくる日から子どもの「お小僧」としての生活が始まりました。

ひと月ほどすると、和尚はお小僧をよび「お小僧や、そろそろこの寺の暮らしにも慣れただろうから、本堂から少し離れた大きな杉の木の根元にある祠(ほこら)に、お灯明(とうみょう)をあげてくれまいか。わしは、もう年だから夜は辛くてのう。いきなり一人で行けとはいわんでな。二、三日は一緒に行ってお灯明のあげ方を教えてやるで、それから後は一人で行ってくれよ」

           Photo                                  (古い歴史をもつ満願寺の本堂) 

さっそくその日の夜から、祠へのお灯明あげが始まりました。暗い夜道をお小僧が提灯(ちょうちん)を持ち、足元を照らしながら歩いて行きました。やがて山門をくぐり、大きな杉の木の下へ来たとき、お小僧は「キャー」と大きな声をあげて座り込んでしまいました。

「どうしたのじゃ」と和尚が声をかけると、お小僧はぶるぶる震え、やっとのことで「あそこに光るものが二つ」と答えました。

           Photo_2                                (石仏が並ぶ境内の小道)

「はっはっはっ。ここはなあ、山の中だでのう。キツネやタヌキ、フクロウなんかいっぱい出てくるのじゃ。そんなことに驚いていては、寺の修業はできんぞ」とたしなめられました。「おら、気が小さくて…」とお小僧がいうと、和尚は「念仏を唱えて歩けば怖くなくなるぞ」と教えてくれました。

いよいよお小僧が一人でお灯明あげに行く日が来ました。道の半分ほどまで来たのですが、額の汗を拭いても背中がゾクゾクしてきて、足が前へ出ません。

木の上から突然ギャーギャーという鳥の鳴き声がしました。お小僧はもうたまらず、今来た道を一目散に走り帰りました。

           Photo_3                              (昼なお暗い杉の木立に囲まれた境内)

すると、待ちかまえていた和尚にひどくしかられ、あげくの果てに、棒でたたかれました。それから三日目のこと。和尚は「おまえは、なんという意気地なしだ。きのうの夜は行かなかったな」とかんかんになってお小僧をしかりました。「はい、かんべんしておくれや。昼間、薪割りしたもんで、くたびれて眠っちまっただわい。こんだっから、きっと、ろうそくあげに行くで」と謝り、ようやくのことで許してもらいました。

それから、五日目の風の強い夜でした。お小僧は、ろうそくをあげるために、真っ暗な道を歩いて行きました。杉林の切れた辺りまで来ると、急に強い風が吹きつけ、提灯の明かりが消えてしまいました。あわてて引き返してきましたが、なにしろ真っ暗な道なので、木の根にぶつかったり、転んだりしながら手さぐりでやっと寺まで帰って来ました。

すると、戸口に和尚が立っていて、大声でどなりました。「こら。またおまえは、ろうそくをあげて来なかったな」と言ったかと思うと、お小僧の腕を取ってぐいぐい引っ張って行きました。「かんべんしておくれや。許しておくれや。和尚さま。かんべんしておくれや」。いくら泣きながら謝っても、一向に聞き入れてくれません。

祠まで来ると、和尚は、お小僧を杉の木にしばりつけ、棒でところかまわず打ちました。そのうち「ひい、ひい」と泣いていたお小僧の声が聞こえなくなりました。「これで少しは骨身にしみたじゃろう。明日の朝までよく考えておれよ」。和尚は、そう言って寺へ帰り寝てしまいました。

           Photo_4(お小僧は、数十段の石段をのぼり、この仁王門をくぐり本堂までの道を歩き修業していたのでしょうか)

次の日、朝めしをすませた和尚は、「昨日の夜は、めずらしく寒い風が吹き荒れていた。お小僧め、あれだけ痛い目にあって今度こそはろうそくをあげるじゃろ。どれ、縄をほどいてやるか」と、杉の木の祠へ行きました。「おい、少しは心を入れ替えたか」と言っても、お小僧はびくとも動きません。

和尚は、お小僧がしばられたまま寝ていると思い、肩に手をかけて揺すってみました。しかし、お小僧は動きません。手首に触った和尚は、びっくりしました。「こりゃ、えらいことをしてしまった。死んでるわい」。和尚は、いろいろと考えましたが、誰も見ていないことから埋めてしまおうと考え、鍬(くわ)を持ってきて、杉の木の根元にお小僧を埋めてしまいました。

次の日の夜、和尚がろうそくをあげに祠へ行くと、杉の木の梢(こずえ)の辺りが、ボーッと明るくなっていました。しばらく立ちつくしていた和尚は、ガタガタと震えだし「小僧のゆうれいだー」と、いったかと思うと、提灯を投げだし一目散に山を駆け下りました。そして、どことも知れず姿を消してしまったということです。

 

* 『 あづみ野 穂高の民話 』(安曇野児童文学会編)、『安曇野の民話』(平林治康著)、『穂高付近の伝説民話考』(臼井雅史著)を参考にしました。

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