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常念坊~常念岳

むかし、年の暮れになると、堀金や豊科に市が立って賑わっていました。魚や塩・油・酒、鍬や鎌などの農具、陶器、米や粉など穀物、着物や野良着などを売る店が、路の両側にびっしり軒を連ねていました。

やがて日も暮れ、お寺の鐘が鳴り響いてくると、一日の商いを終えた商人たちは店をしまい大八車に残った品物を積み込み始めました。酒屋も店じまいをしていると「もうし、お頼み申す。酒をくれないか」。 振り返ると、ぼろぼろの衣を着て長い杖を持ち、頭の毛を肩まで垂らしたお坊さんが立っていました。

           Photo_2                          (常念岳に道祖神、安曇野を象徴する風景といえます)

「この徳利に酒を一升入れてくれぬか」と、小さな皮袋を差し出しました。「お坊さま、この小さな袋に一升は、とても無理だんね」と店のものがいうと、お坊さんはギロリとにらむように「そう言わずに入れてみてくれぬか。きっと入るでな」と譲りません。「こぼれたって知らねんね」と、その皮袋に酒を入れ始めました。

ところが、不思議なことに酒はどんどん入り、きちんと一升入ってしまいました。「へえー!こりゃ驚いた。お坊さま、一升入ったわね」。「ワッハッハア、わしの言ったとおりだったろうが。ところで酒代はいかほどかな?」とお坊さんがたずねると「お代はおまけしておくわね」と、店の主は答えました。

          2          (北アルプスの秀峰・常念岳=2857m。冠雪している姿が雄々しさを印象づけます)

「いや、いや、そうはいかぬ。ただでもらっては、わしの気が済まぬ。……それじゃ、気ままな酒代をここへ置いとくでな」。言うが早いか、お坊さんは側の釣るし籠へ、さっとお金を入れるとスウッと消えてしまいました。お坊さんの置いていった酒代を勘定してみると「こりゃ驚けた。えらくたんとあるぞ」。驚いてお坊さんが去った方に目をやると、常念岳が目に入りました。

「おや、あれは何だや? さっきの坊さまじゃねえかや」。山の中腹あたりにお坊さんの動く姿がちらっと見えたのです。しかし、それは一瞬だけで、その後は見えませんでした。

次の日、酒屋の主は酒の売値を、お坊さんが置いていった酒代と同じにしました。すると、これまでになく良く売れ、それからは、この酒屋は大変にぎわうようになりました。

          053(常念岳に毎年5月になると姿を現す常念坊の雪形。徳利を手にしているように見えるでしょうか)

そして、それからもお坊さんは時々、市場に来て買い物をしました。不思議なことにお坊さんが立ち寄った店は、どこも繁盛しました。
「これは、お坊さまのお陰だ。お坊さまが来る前は、そんねに繁盛してねえ店ばかりだったが、立ち寄ってからみんな急に繁盛しだしただ。……あのお坊さまは八面大王の家来だった常念坊に違えねえ。大王が倒された後有明山から常念岳の岩屋に逃げ落ちたというで、まちがいねえ」

「あの坊さまが立ち寄った店はもちろんだが、市も前より賑わうようになっただ」と口々に語り合い、酒屋がお坊さんの姿を見たという常念岳の同じ場所に、毎年現れる雪形を「常念坊」と呼ぶようになりました。

 

    * 『あづみ野 堀金の民話』(あづみ野児童文学会編)を参考にしました。

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