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ツバメの死~燕岳

むかし、むかし、ずっとむかしのことです。燕岳の近くの沢に粗末な小屋があり、年とった父親と娘が住んでいました。父親は以前は里に住んでいましたが、人の物を盗んだというあらぬ疑いをかけられ、その後まもなくつれあいにも先立たれたこともあり、里に見切りをつけ山奥に移り住むようになりました。

          Photo                           (北アルプスの秀峰・燕岳=2,763m)

訪ねてくる人もいない静かな毎日でしたが、時にはクマやイノシシを追ってきた猟師が泊まることもありました。
そんな時には、夕食の後で猟師は「里の方は家がたくさん建ち、市が立っていろいろの物が売り買いされ、美しい着物をきた人たちがぞろぞろ歩いていて、それはにぎやかなもんだ」と里の様子を話してくれました。娘のふきは、こうした話をなんどか耳にするうちに、不便な山の生活と比べては、里へのあこがれと夢を大きく膨らませるのでした。

ある日のこと、ふきは父親に「里というところに一度でいいから行ってみたい」と相談しましたが、「若い娘が一人で行ったらどんなことになるのか、里はそんなにやさしいところじゃねえ。猟師のでたらめな話を本気にしちゃダメだ」と、厳しく言うのでした。

でもふきの思いは、父親のいう里のおそろしさより、胸の中に広がった里へのあこがれの方がずっと大きく、もうどうしようもありません。「いつかきっと里へ行ってどんなとこか見てみよう」と心に決めていました。

           149              (むかし猟師が使っていた銃と弾丸=穂高郷土資料館蔵)

 それからしばらくしたある日のこと。父親は朝早く、カモシカの猟へでかけました。大きな獲物をしとめ、夕方勇んで家に戻りました。「ふきや、いま帰ったぞ」と声をかけましたが、返事がありません。家に入ってみると、娘の持ち物がありません。

「とうとう里へ行ってしまったか…どうか無事で帰って来てくれ」とつぶやくと、その場に座り込んでしまいました。

娘のふきが家を出てからひと月、ふた月と過ぎ、やがて冬が来て春になり、何度目かの夏がやってきました。ある日のこと、小屋の軒下に一羽のツバメが巣を作っているのを見つけました。

「ほう、めずらしいこともあるもんだ」とつぶやいてツバメを見ていると、ツバメの足に赤い糸が結んであるのに気づきました。「あれはふきの帯の糸だ……。まさか…。いや、きっとそうだ!ふきがツバメになって戻ってきたんだ!」

          033                           (ヒナに餌を運ぶツバメの親鳥)

それからの毎日、巣を見上げてはツバメに話しかけたり、時には虫を捕ってきてやったりして、ツバメを本当の娘のようにかわいがりました。

そんな暮らしが続いていた夏の終わりごろ、強い風が吹き荒れました。風は一昼夜続き、とうとう住んでいた小屋が倒れてしまいました。父親は小屋を建て直す元気もなくなり、それから数日後、里が見える場所で息を引き取りました。ツバメは、もう動かなくなった父親の上に止まって「チーチーチー」と悲しい声で鳴きました。

     Photo(高山に棲息するアマツバメ。父親に寄り添っていた亡がらはアマツバメだったのでしょうか=大町山岳博物館蔵)

木々の葉が紅く色づき、やがてそれも散って寒い風が吹くころになっても、ツバメは鳴き続けていました。

そして、初めて雪が降った夜、ツバメはとうとう父親のなきがらの上で冷たくなっていました。雪は降り積もり、二つのなきがらをすっかり隠してしまいました。

          2_2                    (有明山=信濃富士=の左手に見える燕岳と安曇野の里)

やがて夏になり、いつかの猟師が小屋にきました。つぶれた小屋の近くに二つのなきがらを見つけました。「年寄りとツバメが一緒に死んでいるとは、きっと何か訳があるにちげえねえ」と二つの墓を作ってやり、「燕の山」と書いた墓標を立ててやりました。

その後しばらくして、この山を人々は燕岳(つばくろだけ)と呼ぶようになりました。

 

     * 『 あづみ野 穂高の民話 』(安曇野児童文学会編 )を参考にしました。

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